2-5 ペグ法の基本

連鎖法と並んでもっとも基本的な記憶法がこれから紹介するペグ法である。

連鎖法の場合、基本さえわかっていれば、何の準備も要らず応用範囲が広く、記憶の量も多いが、第何番日は何かと問われたら、最初から連鎖の鎖をたどっていかなければ引き出せない。

この欠点を補うのがペグ法である。
ペグ(peg)とは掛けくぎのことで、記憶すべき事柄を並んだペグに引っかけて覚えようとするものである。

たとえは自分の身体の部分部分に上から順に番号をふる。
@−頭、A−額、B−右目、C−左目、D−鼻、E−口、Fアゴ……としてAなら額、Bなら右目とすぐにロに出せるようにする。

そしてこれらを掛けくぎにして、記憶すべき事柄を連想でつなげる。

Aが飛行機なら自分の額に飛行機がぶつかっていると連鎖する。
Cが鉛筆なら左目に鉛筆が刺さって痛いと想像するのである。これだとC番と問われれば、左目→鉛筆とすぐに引き出せる。

ペグ法の歴史は非常に古く、
古代ギリシャ・ローマ時代に盛んに用いられていた。

当時の人たちは詩や文章をこれによって覚えたのである。
また雄弁家たちは長い演説をこのペグ法を使って行なっていた。

19世紀にウィリアム・ストークスがこのペグ法を体系的にし
『記憶』と題する解説書を1888年に出版した。

これによってペグ法が一般化し、大いに活用された。

日本でも、明治時代にこれに関する解説書が出版されている。
このペグ法の基本は、掛けくぎをつくることである。

古代から一般に使われているのは、自分の家に番号をつけておくことである。 @入口の扉  Aくつぬぎ  Bゲタ箱  Cゲタ箱の上の花びん  Dカレンダー  E洋ダンス  F押入れ  G額ぶち  H壁のポスター  Iテレビ 
はじめは10ぐらいに番号をつける。

頭の中で部屋の光景を思い浮かべ、番号をつけるのである。
そして、番号を思ったらすぐに、部屋の場所や品物が思い出せるようにする。

これは5分か10分で覚えられる。 そして、連想で結びつける練習をする。
練習をくり返していると、いっそう、この掛けくぎがハッキリと記憶できる。

部屋を思い浮かべたとき、その場所に数字がついているイメージが浮かぶようにするとよい。 
これができたらさらに10ほど番号をつける。

J時計 Kテーブル  Lイス M窓  Nカーテン O茶ダンス  P茶ダンスの引出し Qキッチンのノレン  R流し台 Sガスコンロ
これで練習し、できればさらに10ほど番号をつけておくとよい。

これだけのペグの基本をつくっておくだけでいろいろ活用できる。

2-4 連鎖法の応用

連鎖法は、順序のある多くの事柄がはっきりと記憶できる。

たとえば、その日のうちにしなければならないことを記憶するときなどに役に立つ。 

かりに、次の五つの用件をその日のうちにかたづけねばならない用件だとすると、連鎖法が一番役に立つ。
@テレビを注文する Aタイプを打つ Bスーツをオーダーする C取引先の田中氏と会う D切手を購入する

これら五つの用件を順序よく覚えるとしたら、たとえば……。
1 テレビとタイプ ー テレビにタイプライターのキーがついており、テレビに紙を差し込んでキーをたたいている。

2 タイプとスーツ ー タイプ用紙でできたスーツを着ている自分を想像する。

3 スーツと田中氏 − 田中氏が大きなスーツとダンスをしている。

4 田中氏と切手 − 田中氏が大きな切手の上に貼りついてもがいている。

最初のテレビについては、会社の入口がテレビの画面になっていると想像しておくと、会社を出入りするたびに五つの用件が一瞬にして思い出せるというわけだ。 

この方法を使う場合は前日の夜、寝るとき床の中で連鎖しておいて、翌朝出かける前や通勤電車の巾で復習しておく。 会社に入ったあとで、用件が増えれば、最後のものに連鎖させておく。

このほかにもビジネスや日常生活に役立てることができる。 会議や出張に持っていく書類や資料を忘れないようにしたり、講演や挨拶、スピーチの内容の記憶などにはもってこいだ。

結婚式のときにスピーチを頼まれたのはいいが、途中から脱線してしまい、話したい肝心のことを忘れてしまったというようなこともなくなる。

たとえば会社の創立記念日のあいさつで、これこれのことを間違いなくみんなに伝えたいなどというときは、
@創立当時の社宅 − A創立者の顔 − B援助を受けた人の顔 − C事業の拡張期に建てたビル ー D現在の状況を象徴する商品 − E将来を担う新入社員の顔、

というように連鎖させてあいさつの前に復習しておく。原稿を棒読みするのでは効果も半減する。
連鎖法を日常生活にしょっちゅう活用していれば自分では考えられないほどの情報を身につけることができ、しかもそれを即座に引き出せる。

2-3 連鎖法は練習が第一

連鎖法記憶法のうちでも、もっとも練習しなければならないものである。

この練習でも、連想の練習のときと同じくカードを使う方法がある。

まず何校かのカードにいろいろな事柄を書く。
書いたら、裏向きにしてよく切り混ぜ、その中から15枚ほどを抜きとり、1枚ずつ机の上に枚に並べ、前項の要領で連想でつないでいく。

1枚の紙に15ほどの事柄を書いてもよいが、カードの方が練習しやすい。

こうやって何回かやるうちに自信がついてきたら、今度は友人に手伝ってもらって練習する。

相手に、思いつくまま15ほどの事柄を言ってもらい、それを紙に書いてもらう。

書いておかないと後で確かめようがなくなるからでもあるが、相手が次々に言う事柄を紙に書いている間に、連想を働かせながら、連鎖させていくのである。

こうやって相手が最後まで書き終わったら、即座に、記憶した事柄を初めから順に言う。
この練習を何回か続けていくと、連想も素早く行なえるようになる。

練習の初めのころは、具体的な、形のある名詞や動詞のような連想しやすいもので行ない、慣れてきたら抽象的な事柄を入れていく。

一つ問題がある。それは相手が最初に挙げた事柄をどう記憶するかということである。これは相手と結びつければいいわけである。

たとえは最初が飛行機という名詞であれば、大きなジャンボ旅客機が相手の頭に落ちているといったイメージを思い浮かべればよい。

そうすれば相手の顔を見ればすぐに飛行機が浮かんできて、あとはイモづる式に引き出されてくる。

この練習ができたら何人かいる前で、この記憶法の実験をやってみるとよい。 

何人かの人に20ぐらいの事柄を次々に言ってもらい、誰かに書きとめてもらう。
その間に連想を働かせながら覚えていく。
終わったら、初めから順に、そして最後から順に言ってみる。

この実験を多くの観客の前でやるショーもあるが、基本は同じである。目隠しをして、お客に言われたことを次々に黒板に書きとってもらい、全部言い当てるのである。

バカげたイメージを浮かべるということを強調したが、むずかしい場合、前述した三つのルールを覚えておくと役に立つ。

まず、代用法。ある事柄の代りに他の事柄を想像する方法で、飛行機の代りに飛んでいる木を想像したりする。

次は誇張法。実物より大きくあるいは数多く像することで、巨大なバケツなどがそれである。無数の封筒、だとか無数のイヤリングといったもの。

三番目は動態法で像に動きをつけることである。飛ぶはずもない木が飛んだり、封筒から無数のイヤリングが飛びだして、あなたの顔にぶつかる、などが動態をつけることである。

2-2 連鎖法

ABCDE……の覚えるべき事柄があったとき、

まずAとBを連想で結び、次にBとCを連想で結び、
次にCとD、さらにDとEといぅ具合に全部を連想でつなぐ。

この連想がうまく行なわれていれば、
Aを思い出すだけで全部のものが連想の鎖につながって
次々に思い出せる。

たとえば何の関連性もない次の10の事柄を記憶しようとする。

飛行機、木、封筒、イヤリング、バケツ、歌う、
バスケットボール、サラミ、星、鼻。

このまま丸暗記しょうとしても簡単にできるものではない。
しかし次のように連想をつなげていけは案外うまくゆく。
連想の方法は例によって、ハカげた方法でやる。

1 まず飛行機と木を連想で結ぶ。
 たとえは巨大な木が飛行機のように空を飛んでいるイメージを思い浮かべる。

2 次は木と封筒。
 無数の封筒が果実のように木になっているとイメージする(あるいは巨大な封筒の中に木が入っているイメージでもいい)。

イメージを浮かべるには、何分の一秒かの短い時間でもいいが、要はハッキリとした像を定着させることである。そして極端なイメージであるだけに、決定的なものを一瞬で浮かべるようにしなければならない。

3 次は封筒とイヤリソグ。
 封筒をあけると無数のイヤリングがあなたの顔にぶつかってくるとか、イヤリングの代りに封筒を耳にぶらさげているとかのイメージ。

4 次はバケツなので、巨大なバケツがイヤリングをつけていると想像する。

5 次は“歌う”という動詞であるが、
 巨大なバケツが大きな口をあけて歌っている、あるいは頭にバケツをのせて歌っている自分のイメージを浮かべる。

自分自身にむすびつけてイメージをふくらませると効果的だ。

6 “歌う”とバスケットボールでは、
 歌っている人の口から無数のバスケットボールがとび出しているとか、バスケットボールが歌っているとか想像する。

7 次はサラミ。
 サラミがバスケットをしている、あるいはバスケットの選手がサラミをボールにして試合しているイメージ

8 次は星。
 空にきらめく大きなサラミの像。あるいはサラミの代りに星を切っている像でもいい。

9 最後は鼻。
 大きな鼻をもった星。鼻の代りに顔に星をつけた自分の顔でもいい。

これで10の事柄がつながった。
文で読むと面倒に思えるが、慣れると十秒以内で連想できるようになる。
ただし、最初の飛行機だけは連想するものがなかったので少しは苦労するだろうが、これさえ思い出せればあとは簡単。

飛行機−木−封筒−イヤリソグ−バケツ−歌う−バスケットボール−サラミ−星−鼻。誰でもすぐにできる。

途中で不明なものがでてきたとしたら、それは、忘れたのではなく、はじめにハッキリとしたイメージを描かなかったか、言葉で頭に入れたからである。

実際に紙に書いてみるとスラスラと書ける。今度は鼻から逆に書いてみる。そうやれば、あなたは10の事柄を完全に記憶したことになる。

2-1 連想法

連想の技法は日常生活に大いに活用できる。

書斎で本を読んでいると、隣りの部星に電話がかかってきて、電話に出る。戻ってきて本を読もうとすると、本がない。どこかに置き忘れたのである。

外出をする。バスに乗ったとたん、家のドアに鍵をかけたか、テレビのスイッチは切ったか、ストーブの火を消したかどうかなどと気になり、どうしても思い出せず、イライラしたり、もう一度家に帰ったりする。

このようなモノ忘れ、置き忘れは、無意識な行動をとったために起きたことで、忘れたのでなくしっかり覚えていなかったのである。

モノ忘れをなくすには、その事柄をはっきりと認識することが効果的だ。

電車の運転手が、ひとつひとつ自分の操作を口に出して言うのも、そのためである。機械などを操作する工場などでも、事故やミスをなくすために.指差確認などを行ない、慣れによって無意識な操作をするのを防いでいる。

はっきりと認識し、記憶するのに有効な方法は連想である。
連想は無意識にはできない。その事柄をよく観察し、認識し、心にイメージを刻みつけることによって初めてできる。

いつでも即座に連想する習慣をつけることがモノ忘れの解決になる。 先ほどの例でいえは、電話に出るとき、本をテレビの上に置いたとする。そのとき、テレビの画面に本を投げてメチャメチャにこわしたと連想すればよい。

雨がやむと帰りに傘を忘れることがよくある。これを忘れないようにするには、たとえばオフィスを出るとき最後にすることと連想しておけばよい。

タイムカードを押すなら、カードの代りに傘を差し込んだと連想する。

宝石を引き出しのセーターの下に入れたとする。この場合、巨大な宝石がセーターを着て踊っていると連想しておけばよい。宝石がどこかと考えればセーターが思い浮かぶ。

家を出るとき、ストーブを消したら、ストーブの中に頭を入れて火が消えているのを見ていると連想する。外でストーブのことを考えると、頭をストーブに入れている自分が思い浮かぶので消したことが確認できるのである。

このように連想する習慣をつけておくと、記憶力はかりでなく、観察力、想像力、集中力、創造力の向上にも役立つ。

ものごとを記憶する習慣をつけるようにしてみると、いままでいかに観察していなかったかかわかるだろう。

この習慣をつけるとあなたの身のまわりを見なおすことにもなり、旅行をしても、美しいもの、新しいものを発見するのに役立ち、新しい世界が生まれるのである。

1-10 カードでやる連想の本格的トレーニング 

本格的に連想の練習をしようとするなら単語カードを利用するとよい。

まず、50枚から100枚ぐらいの単語カードを用意して、表側に品物、人名、地名など、いろいろな言葉を書き入れる。
小さい百科事典の適当な箇所から抜き書きするとよい。

このカードを裏返して、トランプのように切り混ぜる。
そして上から裏向きのまま二枚ずつ組みにして取り出す。
これは、慣れないうちは十組くらいがよい。

さて、二枚ずつを表に返して、イメージ連想をやって、終わったら伏せる。 全組について終わったら、組になった一枚の表側を見て、伏せてある他のカードの言葉を思い出す。

こうして当てることができたカードはわきにどけ、はずれた分はもう一度やり直してみる。
慣れるにつれて組数をふやし、やがて50組ぐらいやれるようになる。

初めは品物や動物の名のように、具体的イメージになりやすい言葉を選んだ方がよいが、自信がついてきたら抽象的でイメージの浮かべにくいものに挑戦する。

たとえは、「記憶」 「生きがい」 「石油ショック」 「減税」 「芸術」 「不確実性の時代」などについてやってみると、グッとむずかしいことがわかるであろう。

もちろん、このカードはときどき書き換えないと、それこそ覚えてしまって役に立たなくなる。
そして、この練習には、自分の専門分野のハソドブックや小事典から言葉を拾い出せば一石二鳥というわけである。

なお、この練習は自分でやるはかりでなく、誰かに手伝ってもらうと一層効果的である。

自分でカードをつくっていると、その段階である程度記憶してしまうので、イメージがつくりやすくなってしまうからである。

友人か誰かに二つの単語を言ってもらい、同時にそれをメモしてもらう。自分はそれを素早く連想する。できたら次の組合せを言ってもらう。これなくり返し、20くらいの組のメモができたらテストをやる。

相手に、組になった単語のどちらか一つを言ってもらい、一方を言い当てる。 本格的なイメージ連想のトレーニングはこのようにして行なうが、大切なのはルールにのっとって、どんな言葉のイメージも自由自在にすぐ浮かべられるようにすることである。

この基本がマスターできないと、特定の事柄についてしか通用しない「記憶術ショー」の域を出られない。

連想には大胆さが必要である。バカバカしいとちょっとでも思ったら効果は半減する。大胆、奔放なイメージをなんなく描ける人ほど、想像力が豊かであり、結局はそういう人が記憶力にも力を発揮するのである。

1-9 イメージ連想のテスト

前項の三つのルールにしたがってやれば、非論理的でしかも記憶に有効なイメージを描くことができる。

しかし、バカげたイメージをスイスイと思い浮かべるには、頭が柔軟でなければならない。
若いうちは自由な発想ができるから、子供などは奔放な想像力で奇抜なイメージを描ける。
しかし、組織人としてのキャリアの長い大人になると、分別がじゃましてありきたりのイメージしか措けない。

そこで、いわゆる心身改造が問題になってくる。

つまり、精神がリラックスすれば頭が柔軟になり、想像力、創造力がうまく働くようになる。
リラクゼーション記憶力のほか創造性開発訓練に有効な理由がそこにある。 

では、前項の三つの方法のどれかを使って次の連想テストをしてみよう。

@からIまで、上の言葉に下のものを連想させてイメージを描き、五分ほどたったら上の言葉だけみて、下の言葉を思い出してみる。
うまく出てこないものは、どこが悪かったか調べてみよう。

@パイプー貝がら A家−酒 Bイカ−そば C棚−ふとん Dシマ馬−手紙 E灰皿−飛行機 FUFO−札束 G寺−アルプス H門−ナイフ I船−たたみ

1-8 バカげたイメージを思い浮かべる三つのルール

連想イメージはバカげている方がよい、と言ってもむやみと珍妙なことを考えるのもなかなか骨が折れる。

そこで、この項ではバカげたイメージを浮かべるための三つのルールを紹介する。

(1)動態法 :イメージに動きをつける方法。
「箱−飛行機」だったら、大きな箱に飛行機が入っているというより、箱の中から飛行機が飛び出して、すごい速さであなたの顔にぶつかってくる、と思い浮かべると強烈なイメージになる。

(2)代用法 :ある事柄を他の事柄の代りにしてみる方法。
前項の「自動車−材木」で、材木にタイヤがついて走っていることにした。つまり、材木を自動車に代用したのである。

「ビール−イヤリング」なら、ビールジョッキ型のイヤリソグにしてしまう。
「本−電卓」なら、本のカバーにキーがいっぱいついていて電卓だったというイメージ。

代用法はもっとも素朴だが、使いやすいのでコツをマスターしておくと便利である。

(3)誇張法 :ある事柄を実物よりも大きくしたり、数を多くする。
 「ミカン−犬」を連想するなら、大きな、ミカンが小犬の鼻の上に乗っているイメージ

「ピン−ビルディング」なら、サンシャイン60ビルに大きなピンが突き刺さっているというショッキングなイメージ。

「ゴムバンド−東京タワー」の場合、山のようなゴムバンドで東京タワーがうずまって苦しがっているイメージ。

とにかく、一方を巨大にするか、無数に多くすればいいのだから、機械的に使える便利さがある。

以上、三つの方法をマスターしたら、次第に二つ、三つを組み合わせて、より強いイメージにしていく。

「ピン−ビルディング」なら、巨大なピンの形をしたビルが自分の頭の上から倒れかかっているとする。つまり、代用法、誇張法、動態法の三つを総動員する。

「自動車−材木」の場合、材木の形の自動車がフルスピードであなたを引き殺そうと向かってくるとする。これは代用法と動態法の組合せになる。

1-7 連想は非論理的でバカげたものを

昔の文献に次のような記録がある。

「人は、毎日見ているささいな、ありふれた事柄を、一般に覚えてはいない。奇抜な、不思議な、俗悪な、法外な、巨大な、などといった常とはちがうバカげたことを見たり聞いたりすれば、長い間覚えているのである。それ故に、身近に見聞することは通常、見すごしてしまうのだが、子供の頃の出来事などはよく覚えている。

見るという行為に変わりはないのに、正常でありふれたことは簡単に記憶から脱落し、異様なことは、いつまでも記憶に残っている。理に合わない話ではないか。」

たとえば、「自動車」と「材木」を連想でつなぐとする。正常な感覚でやれば、材木を積んだトラックが走っている絵になってしまうが、これでは平凡でイメージに残りにくい。

では、材木がスーパーカーですっとはしている連想はどうか。それとも、タイヤがついた材木が走っているのでもよい。これなら、非論理的だし、かなりバカげているから印象が強い。

「トウモロコシ」と「野球」ならどうか。イチロー選手がトウモロコシを食べているイメージも悪くはないが、でも、ありそうなことだ。トウモロコシのバットをかついだイチロー選手が、飛んでくるポップコーンの球を打っているイメージの方が効果があるだろう。

筋が通って論理的であることは、それ自体むしろ記憶を容易にする面がある。どんな将棋でも記憶してしまうプロ棋士でも、もし相手が幼稚園児で支離滅裂な手ばかりやってきたら覚えきれないかも知れない。

要は、正常で当り前すぎると印象が弱いということなのだが、もうひとつ大切なことがある。

それは、バカげたことや非論理的なイメージを描くということが一種の創造的活動だということである。そういう知的努力があるからこそ、頭にしっかり刻み込まれるのである。

1-6 記憶法の基本・連想法

記憶法の基本を一言でいえば、
イメージを結びつける連想である。

この連想のバリエーションを知り、
応用するのが記憶術なのである。
と言っても、実はこの方法は誰でもやっていることなのである。

たとえば、スイスやフランスの国の形はどんなもの?
と聞かれてすぐ答えられる人はかなりの地理通。
一般の人は知らないのが当り前である。

ところが、イタリアの形はたいていの人が知っている。
なぜか。
それが長靴に似た形であることがよく言われているからだ。
長靴なら誰でもよく形を知っていて、
それとイタリアの形を結びつけるからもう忘れることはない。

ある記憶術家は言う。
記憶の基本ルールは、
新しい情報を既知のものに連想すること」
と。

山田さんに会ったら、
本を返してもらうことを忘れないようにするには、
よく知っている山田さんの顔を想像して、
その頭の上に返してもらいたい本がのっている
イメージを思い浮かべる。
これで、いざ会ったときに思い出せるのである。

課長が帰ってきたら、
社長がお呼びですと伝えることを忘れないためにはどうするか。

いつもエラそうにしている課長が、
社長の前でペコペコしている光栄を想像してみればよい。
課長の顔を見たとたんに思い出すであろう。

思考が次の思考を呼び起こすという原理を応用して、
二つのことをイメージで結びつけておくのである。

ところが、われわれが無意識に行なっている連想というのは、
ひどくバラバラで行き当りバッタリなものが多い。

ライターを見ていて出張旅資の請求忘れを思い出したり、
人と関係ない話をしているときに、なぜか突然、
取引先への電話を忘れていたことを思い出したり
ということはよくある。

だから、この連想を体系化すれば、
それが立派なツールとなって、
記憶力を何十倍にも増進することができるのである。

方法は、まず具体的な形のあるものの連想から練習して、
基本をマスターする。

次に、
思考とか概念といった形のないもののイメージ化に取り組む。

1-5 メンタル・リハーサル

イメージ法は、単に記憶力増進に役立つばか造でなく、スポーツや技術の練習において実際の練習と同じような効果を得ることができる。

アメリカのマックスウェル・マルツは次のような例をあげている。

バスケットボールのフリー・スローの訓練を次の三つのグループに分けて行なった。

Aグループほ、20日間、毎日20分、実際に練習をした。
Bグループは、この20日間、何の練習もしなかった。
Cグループは、20日間、毎日20分間、ゴールにうまくシュートするイメージを描くだけの練習をした。

そして、それぞれのグループの第1日目と20日目の得点をくらべてみた。

汗を流して実際の練習をしたAグループは、得点力が24%向上した。何もしなかったBグループは、当然、向上はまったくなかった。イメージだけの練習をしたCグループは、得点力が23%向上した。

驚くべき成果といえよう。

このイメージ訓練法「メンタル・リハーサル」と呼ばれて次第に各界で取り入れられるようになってきているが、このコツをマスターすればしめたものだ。通勤電車の中だろうと、フトンの中であろうとゴルフや水泳の練習ができるのである。

では、ゲームのような頭脳的なケースはどうであろうか。『リーダーズ・ダイジェスト』誌にジョセフ・フィリップスの「チェス=人はそれをゲームと呼ぶ」という次のような記事がある。

チェスのチャンピオンの中でもっとも強かったといわれるキャパブランカがアルカインという無名に近い選手に王座を奪われてしまった。

……実は、アルカインは強豪との対決を前にちょっとかわったコンディション調整をやったという。それは、田舎にひっこみ、酒・タバコを断ち、体操で身体を整え、頭の中でひたすらチェスを指すイメージ訓練を行うことだったのである。

囲碁や将棋の高段者も、このイメージ法を利用している。定石や過去の棋譜は固まりとして記憶してあるから、たえずそれを描いて、盤やコマのない所でもトレーニングをしているのである。

将棋の木村義雄14世名人の話によると、プロの対戦では常に何手か先の形で戦っているという。初心者のように「この歩をつくと金でとられ、それを飛車でとる……」式の部分思考でなく、

局面全体をパターンでとらえてイメージを描く。だから、何十手も先の局面を、相手の出方によって何通りも頭に描きながら戦う。これでこそ、何千、何万という定石や、棋譜を記憶しておけるのである。

世界的ピアニストのアルトゥール・シュナーベルは、他の人よりも練習量が少ないのではないかと尋ねられて、

「私は頭の中で練習している」と答えたという。

1-4 全体的なイメージで覚える

記憶といっても、百ケタの数字や英単語を覚えることばかりではない。

身体が覚えている ということがある。

記憶喪失症の人がふつうの人と変わらない行動をする。二十年ぶりに野球やゴルフをやったりしても、結構身のこなしやカンどころを覚えている。「昔とったキネヅカ」という言葉があるように、腕につけた技術は本人が忘れたつもりでも身体が覚えている。

ゴルフの練習の場合、グリップがどうの、スタンスがどうの、やれ肘が曲っている、ひざが悪い……といろいろ注意されても、いっぺんには覚えきれない。そこで効果的なのが、イメージで全体をつかむ方法である。

例をひとつ。

「消しゴムの下端を固定して、上端をねじあげれば、その消しゴムは元に戻ろうとする力が働きます。もし、このとき、消しゴムの下端を固定しなかったら……考えるまでもなく、立板をまわすのと同じになり、もとに戻ろうとする力は働きません」

ゴルフの、バックスウィングからダウンスウィングの初期もこれと同じことがいえます」

「人間のからだを消しゴムに見たてれば、その下端に相当するのがからだの下半身で、ねじった上端が両肩ということになります。人体も一種の弾性体ですので、上半身をまわせば、もとに戻ろうとする力が働くのは当然といえます」

また、バックスウィングからダウンスウィングとスムーズにクラブを振れたのに打球は右の方へ大きくそれて飛んでしまったということも多い。いろいろ原因はあるだろうが、結局はクラブフェースが右を向いているからである。

これを矯正する方法としてクラブをウチワに見たてるイメージ法をやる。つまり、インパクトの際、クラブフェースをウチワに見たてて、いちばん風を起こしやすい面でポールを当てるようにイメージするわけである。

以上のように、全体的なイメージを使えば、部分部分について細かく覚えるよりも効率よく身につけることができる。

もちろん、身体を動かすことはかりではない。将棋や碁の入りくんだ局面を盤面全体としてひと目で覚えてしまうプロの棋士、長いせりふを流れや固まりとして暗記してしまう俳優さん……いずれも無意識のうちにこの方法を使っているのである。

1-3 抽象的なものは具体的なイメージに

恋愛、悲しみ、真理などというような抽象的な事柄は、それをそのままイメージとして思い浮かべることが難しい。

では、どうしたらよいのか。具体的な形のあるものに置き換えて想像すればよいのである。

「恋愛」という文字を見たら、自分自身が恋人とデートしている光景を思い浮かべる。恋人がいない、などと言ってはいけない。それなら、ひそかに好意を持っている人を恋人に仕立てればよい。それもいなければ、松浦亜弥でもキムタクでも好き勝手。

「悲しみ」ならどうか。あなた自身の悲しい経験、親を亡くしたり、失恋したり、という涙い心の痛手を思い浮かべることだ。

「真理」となると、ちょっと工夫がいる。連想するものが人によってまちまちになりやすい言葉だが、たとえば真理を説いている哲学者のイメージでいいだろう。

人や地名などの固有名詞の場合はどうか。

よく知っている人や、旅行で行ったことのある土地なら、その特徴的なポイントをイメージに描けばよい。知らない人名や未知の土地は描きようがないから次のようにやる。

たとえはアメリカの「ミネソタ州」なら、「小さなソーダびん」 (ミニソーダ水)、「サンアントニオ」なら「アントニオ猪木さん」と覚える。

もう一つは頭字法によるもの。たとえはアメリカの五大湖を覚える場合、大きな湖に家が数軒(HOMES)浮いていると想像するという覚え方がある。HOMESから、順にヒューロン(Huron)、オンタリオ(Ontario)、ミシガン (Michigan)、エリー(Erie)、スペリオル(Superior)と引き出せる。

要するに、抽象的なもの、像のイメージがわきにくい事柄を描くには、どんなこじつけでもいいから、自分に合ったものに結びつけるのがコツ。

1-2 記憶はイメージ

記憶術の基本は、

イメージで物事を覚えることである。

品物を覚える場合、たとえば「テレビ」を覚えようとするとき、テレビという文字を覚えようとしてはいけない。テレビという品物のイメージを頭に浮かべるのである。

英単語でも「Dog」という単語を覚えるには、「犬」と覚えないで、隣のポチのイメージを措く。イメージを思い浮かべるということは、頭の中に映画のスクリーンを持つようなものである。

文字を見たり、言葉を聞いたら、即座にこのスクリーンイメージを描く。練習を積みながら、こういう習慣を身につけると、見るもの、聞くもののイメージが短時間でも頭の中に映るので記憶が残りやすい。

では、次の言葉からイメージを浮かべる練習をしてみよう。

 @タバコ、Aネクタイ、Bスカーフ、Cボールペン、D花、E竹やぶ、Fバイク、G郵便局、Hトナカイ、R救急車

さて、どんなイメージが描けたであろうか。

イメージを思い浮かべる場合に重要なポイントがある。それは、できるだけ具体的な物に置きかえること。「タバコ」という文字からは、自分がいつも吸っているマイルドセブンを。ネクタイなら好みの柄のもの、スカーフなら好きな女性がよくしている水玉の、というようにするのがコツ。

単に一般的な品物を思い浮かべると、印象が薄く覚えにくい。これに対して、自分のよく知っている身近な物に置きかえてイメージを描けば覚えやすい。

もう一つのコツは、より大げさなイメージにすることである。ボールペンを頭に描くにしても、実物大のイメージでは印象が弱い。頭の中のスクリーンいっぱいに拡大して描く。花なら、一輪ざしでなく、一面の花畑の方が効果がある。

会議など仕事の打合せや説明会で、こまかいデータや説明をあれこれ聞かされるより、グラフ、図、写真などで示してもらった方がわかりやすいという経験は誰にでもあろう。これも具体的イメージを抱かせることができたからである。

1-1 「記憶術ショー」もトレーニング次第

劇場やテレビの番組で記憶術のショーをご覧になった方も多いと思う。観客を「へェーッ」と驚かせる点で、マジックと並んで受けるショーである。

まず、ステージの中央に大きな黒板を置き、そこに1から30、あるいは50までの数字を記す。

ここで演者は目かくLをする。そして観客に、黒板に書いてある数のうちで好きな数を言ってもらい、次に勝手な品物、地名、人名などを言ってもらう。演者は、あやしげな手つきをまじえながらこれを即座に全部記憶してしまうのである。

たとえは「5番、ビデオ」と客が言うと、アシスタントが黒板の5の数の下に、ビデオと書く。ここで演者は記憶の、ジェスチャーをする。このようにすべての数の下に言葉を書き込んでいく。

それが終わると、観客に好きな数字を言ってもらう。客が7番と言えば「7番、クーラー」、5番と言えは「5番、ビデオ」という具合に答える。このように次々と言い当て、30や50くらいまでならすべて言い当ててしまう。

観客が感心して「へーッ」という声がもれるころを見計ってさらに追い討ちをかける。「30番小泉首相、29番台風、28番ピョンヤン、……3番時計、2番バスケットボール、1番ディズニーランド」などと逆に全部の言葉を言い当ててみせる。

ショーとしての記憶術はいろいろある。何首、何千ケタの数を覚える。切り洩ぜたトラソプ一組の順をほんの数十秒で一記憶してしまう。

こんなショーを見せつけられると、演者は天才に見える。こんな技術を持っていれば、語学、数学、法律なんでもこいだなあとうらやましくなる。しかし、コツとトレーニング次第で、記憶術は誰にでも身につけられるものなのである。

しかも、この術は決してショーのためのものではない。実生活にも大いに役立てることができる。語学の習得、人名の記憶といったことはもちろん、講演、スピーチの手順などさまざまに応用できる。

イギリスの哲学者べーコン「あらゆる知識は記憶にすぎない」と言っている。記憶術こそ、すべての知的活動の源になるものである。

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。